【環境・設備】温冷感・熱・結露に関するノート
一級建築士試験に出題される 温冷感・熱・結露 に関するノートです。
1. 温冷感と温熱感覚指標
温冷感 とは、人が暑く感じるか寒く感じるかを示す指標です。環境要因と人体要因に影響されます。
1.1 温熱六要素
人が暑く感じたり寒く感じたりすることを温冷感という。その影響要因には、空気温度・湿度・平均放射温度・気流・代謝量 met・着衣量 clo の 温熱 6 要素 があります。
- 環境側の温熱要素: 空気温度、湿度、平均放射温度、気流
- 人間側の温熱要素: 代謝量 met、着衣量 clo
要素 | 説明 |
---|---|
??? | 【環境側】空気の温度 |
??? | 【環境側】周囲の物体からの放射熱 |
??? | 【環境側】空気の流れの速度 |
??? | 【環境側】空気中の水蒸気の量 |
??? | 【人間側】人体のエネルギー産生量 () ( が 。体表面 あたりの産熱量) |
??? | 【人間側】着衣の断熱性能 () |
1.2 予測平均温冷感申告 (PMV)
予測平均温冷感申告 (PMV) は、温冷感に影響を与える 6 要素を考慮した指標です。
- +3 (非常に暑い) ~ -3 (非常に寒い) の温冷感申告値で環境を評価
- ??? (予測不満足率) が 10%以下 となる温冷感申告値 -0.5 ≦PMV ≦ +0.5 が快適推奨範囲
- 10% では、10% の人が不満を感じる
1.3 新有効温度(ET*), 標準新有効温度(SET*)
新有効温度 (ET*) は、温熱の 6 要素を考慮し、軽い着衣 (着衣量 0.6clo 程度) の成人が、筋肉労働なし で、微気流 (0.25 m/s 以下) の室内に長時間滞在するときの温冷感を⽰す指標です。
- 新有効温度 ET* の気流を 0.1m/s、代謝量を 1.0met、気温と平均放射温度 (MRT) を等しいとし、標準化したものが ???
- 相対湿度 50% の気温として温冷感を⽰す
1.4. 各温熱感覚指標と考慮されている温熱要素
下表に各温熱感覚指標が考慮している温熱 6 要素を示します。
温熱感覚指標とその考慮されている温熱要素
温熱要素 | 温度 | 湿度 | 気流 | 放射 | 代謝 | 着衣量 |
---|---|---|---|---|---|---|
不快指数 (DI) | ○ | ○ | ||||
作用温度 (OT) | ○ | ○ | ○ | |||
有効温度 (ET) | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
新有効温度 (ET*) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
標準新有効温度 (SET*) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
予測平均温冷感申告 (PMV) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
暑さ指数 (WBGT) [室内] | ○ | ○ | ○ | ○ |
1.5 人体の熱平衡指標
人体の産熱と放熱 が等しい場合、人は温熱環境を快適と感じます。人体の熱平衡は の空間では暑く、 では寒く感じます。
- : 人体の熱収支量
- : 代謝による熱生産
- : 蒸発
- : 対流
- : 伝導
- : 放射
1.6 代謝率(量)
代謝率
- 58W/㎡ が 1met
- 体表面積 1㎡ 当たりの産熱量
1.7 温熱感覚指標と環境側温熱要素
温熱感覚指標と環境側温熱要素
- 有効温度 (ET): 気温・湿度・気流
- 平均放射温度 (MRT): グローブ温度、室温、風速から概算で求められる
- 修正有効温度 (CET): 有効温度の気温に代え、グローブ温度で放射熱を反映
- 作用温度 (OT): 気温と気流平均放射温度
- 不快指数 (DI): 乾球温度と湿球温度から求まる。80 で多数が不快を感じる
- グローブ温度: 気温に周囲の放射熱の影響を加えた値で、黒く塗装した金属球内の温度
- 暑さ指数 (WBGT): 室内では湿球温度とグローブ温度から求まる
1.8 SET* の推奨範囲
SET* の推奨範囲
- アメリカ暖房冷凍空調学会では、快適範囲の 22.2〜25.6℃ に加え、相対湿度 20〜60% としている
1.9. 局所不快感
局所不快感
温熱感覚指標が快適でも、空気温度や天井・壁・床の放射温度の不均一によって不快と感じる場合がある。
- 空気温度は床上 0.1m と 1.1m の温度差は 3℃以下、放射温度分布は天井が +5℃、壁は -10℃ まで、床は 19〜25.6℃ とし、床暖房の場合は 30℃以下、29℃以下 が望ましい
2. 湿り空気の状態量と湿り空気線図
2.1 湿り空気の状態量
湿り空気 の状態量は、 相対湿度 、絶対湿度 、水蒸気分圧 、露点温度 、エンタルピー で表されます。
- 相対湿度: 飽和水蒸気圧に対する水蒸気圧の割合。(重量)絶対湿度とは、乾燥空気 1kg 中の水蒸気重量。
- 絶対湿度: 乾燥空気 1kg 中に含まれる水蒸気の質量。
- 湿球温度: 感温部で蒸発潜熱と周囲からの顕熱がつり合った温度。乾球温度より低い。
- 露点温度: 飽和(相対湿度 100%)となる温度。
- エンタルピー: 湿り空気がもつ全熱量である。
2.2 湿り空気線図
湿り空気線図 は、湿り空気の状態を表すための図です。
湿り空気線図を用いることで、これらの関係を視覚的に理解できます。
3. 熱の移動プロセスと壁体の熱の伝わり方
3.1 熱移動の3要素
熱は水と同じように高いところから低いところに移動する。熱の移動方法として ???、???、??? の 3 プロセスがあります。
- ???: 固体中を高温部から低温部へ移動する現象
- ???: 流体分子が熱を運び去る現象
- ???: 電磁波による熱移動現象
高温側から低温側へ熱が流れることを ??? という。壁体固体内部は ??? により伝わり、壁表面は ??? により伝わる。熱伝達には対流熱伝達と放射熱伝達がある。
熱伝導における 熱伝導率とは、物質の熱の伝わりやすさ、固有の値で、一般的には密度が大きいほうが高い傾向がある(下表)。
地表面や建築外表面からは宇宙空間に放射される熱がある。この上向きの地表面放射と下向きの大気放射の差を ??? という。通常、上向きの放射量のほうが大きいため、夜間の建築外表面温度は、外気温度より低くなる。
3.2 主な材料の密度と熱伝導率
主な材料の密度と熱伝導率
材料名 | アルミニウム | 板ガラス | コンクリート | せっこうボード | 木材 | グラスウール | 水 | 空気 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
密度 (kg/㎡) | 2,700 | 2,540 | 2,400 | 71~1,110 | 550 | 10~35 | 998 | 1.3 |
熱伝導率 (W/ (m・K)) | 200 | 0.78 | 1.6 | 0.22 | 0.15 | 0.036~0.052 | 0.6 | 0.022 |
熱伝導率 に 密度 を乗じた 容積比熱 (kJ/(㎡K)) に、体積 を乗じた値を 熱容量 (kJ/K) といい、壁の温度 を 1℃上昇させるのに必要な熱量である。
3.3 熱貫流抵抗と熱貫流量
熱流 を定量的に表す指標として 熱貫流率 がある。熱貫流率 は次式により求めることができる。 熱貫流量 は熱貫流率に室内外の温度差 を乗じたものである。
- : 屋外側の総合熱伝達率 (W/(㎡K))
- : 材料の厚さ(m)
- : 熱伝導率 (W/(m・K))
- : 室内側の総合熱伝達率 (W/(㎡K))
対流熱伝達率 と 放射熱伝達率 を合わせて 総合熱伝達率 という。設計の総合熱伝達率には下表の値を用いる。屋外と屋内で対流熱伝達率が異なり、風速が速い屋外のほうが総合熱伝達率は高い。
熱伝達率 (W/㎡・K)
対流熱伝達率 | 放射熱伝達率 | 総合熱伝達率 | |
---|---|---|---|
室内側 | 4 | 5 | 9 |
屋外側 | 18 | 5 | 23 |
3.4 熱貫流抵抗と熱貫流量
熱貫流抵抗
熱貫流率 の逆数を 熱貫流抵抗 という。
- : 熱貫流率
値が大きいと熱は流れにくく、壁体の断熱性能が高い。
熱貫流量
- : 熱貫流量
- : 室内外の温度差
3.5 中空層
中空層
密閉の壁体内や複層ガラス内の中空層の空気層のことを 中空層 という。密閉の垂直空気層の場合、空気層は厚くなるほど熱抵抗は高くなるが、2~4cm 程度以上となると熱抵抗はほぼ変わらない。
4. 建物の熱特性
4.1 熱取得・熱損失
熱取得 とは、屋外側から室内に熱が流入 すること。 熱損失 とは、室内側から屋外に熱が流出 すること。
- 熱取得・熱損失要因: 外壁面、開口部、及び隙間風や換気などから熱取得や熱損失があり、また、室内には照明や人間など、様々な発熱がある。
4.2 冬期の建物全体の熱損失
冬期の建物全体の熱損失 は総合熱貫流率と室内外の温度差から求められます。また、総合熱貫流率 は次式により算出される。
- : 部屋 の部位の熱貫流率 (W/(㎡K)) (外壁開口部等)
- : 同上 部位 の部位の面積 (㎡)
- : 空気の定圧比熱 (1,005 J/(kg・K))
- : 空気の密度 (1.2 kg/㎡)
- は空気の容積比熱 (1,206 J/(㎡・K))
- : 換気量、又は隙間風量 (㎡/s)
- は 1 秒当たりの換気回数 (回/s)。通常の換気回数 は 1 時間あたりであるので、 となる
- : 室温 (℃)
- : 外気温度 (℃)
- : 部位の 番目部位の熱損失 (W)
- : 換気やすきま風による熱損失 (W)
4.3 熱負荷
熱負荷
室内環境を一定に保持するために、室内に発熱させたり、除去しなくてはならない熱量のこと。日射透過熱や照明器具が発生する熱などのように、一時室内壁などに蓄熱され、漸次少しずつ室内へ発散される熱流もあるため、ある時刻における熱取得と熱負荷は一致しない。
4.4 総合熱貫流率と熱損失係数
総合熱貫流率と熱損失係数
は室内外の温度差 1℃当たりののある部屋の熱損失量であり、必要暖房熱量や室温の算定には重要な指標である。隣室に面する壁は、隣室が暖房している場合は温度差はないものとし、非暖房室の場合は 1/2 とすることがある。熱損失係数 は、室温 1℃、外気温度 0℃ としたときの、床面積 1㎡当たり 1時間に失われる熱量である。総合熱貫流率は貫流熱損失と換気熱損失の合計であり、総合熱貫流率を延床面積 で除した値が熱損失係数である。
総合熱貫流率は建物の大きさが影響している。住宅の省エネ基準において、建物の影響によらず建物外皮の断熱性能を評価する値として、総合熱貫流率から換気やすきま風の影響を除いた を外皮面積の合計 で割った 外皮平均熱貫流率 がある。 値が小さいほど断熱性能が高い。
省エネルギー法では、日本全国を デグリーデー に基づき 8 地域に分割し、地域ごとに 値等を定めている。
4.5 デグリーデー
デグリーデー
その地域の寒暖を表すパラメーターであり、暖房 (冷房) 負荷 設定温度と日平均外気温との差を累積 (温度差 × 日数) したもの。その値が大きいほど暖房 (冷房) 負荷が増える。冷暖房の地域比較などに用いられている (単位: ℃・day 又は K・日、度日)。
- (°C・day)
- 暖房時の室温を 20℃ とし日平均気温が 18℃以下のときの日に暖房する場合は 3,000 (°C・day) である。
5. 結露現象
5.1 結露現象とは
湿り空気中 の露点温度以下の物体表面には、水滴ができる (結露)。冬に窓ガラスや外壁の温度の低い部分に⽣じる室内側の結露が 表面結露、外壁などの内部に⽣じる結露が 内部結露 である。
- 表面結露 を防⽌するには室内側の表面温度 () を露点温度 () より**⾼くする必要**がある。
- 表面温度は次式による
- : 室内温度 (℃)
- : 屋外温度 (℃)
- : 熱貫流率 (W/(㎡K))
- : 室内側の熱伝達率 (W/(㎡K))
壁体内部に鉄筋など熱伝導率が大きいものや外気に面した室内側の**⼊隅部があると、この部分に熱が集中して流れる。この部分を ??? といい、他の熱性能が高い壁と⽐べると表面温度が低くなり表面結露**が⽣じやすい。
カーテンは室温を上昇させ、窓ガラスの表面温度を低下させるので、ガラス面での結露防⽌効果がほとんどなく、逆に、結露を**⽣じさせやすい。また、⼆重窓のサッシでは、外側よりも内側のサッシの気密性を⾼くすると効果的である。夏期における給⽔管等の結露防⽌**には、断熱被覆が効果的である。
5.2 木造の結露防止対策(外壁・屋根)
木造の結露防⽌対策(外壁・屋根)
断熱材を⽤い、室内側表面温度を露点温度以下にならないようにする。外気側に透湿防水防⾵層や通気層を設ける。繊維系の断熱材を⽤いた場合は、室内側に防湿層を設ける。外壁の断熱層内に通気が⽣じると、外壁の断熱性能が低下するおそれがある。
5.3 熱橋と熱の流れ
熱橋と熱の流れ
熱橋部分 は 温度差 が ⼩さく なり 室表面温度 が下がり 結露 が⽣じやすくなる。
コンクリート造 では、 外断熱⼯法 は 内断熱⼯法 に⽐べ、 熱橋
が⽣じにくい。
内断熱⼯法 は、 断熱材 の継⽬や内装との取り合い部分に 熱橋
ができやすい。
5.4 防湿層
防湿層
防湿層は壁体の内部結露には効果があるが室内の表面結露には無効である。
5.5 結露の種類と防止対策
結露の種類と防止対策
室内で ⽔蒸気 の発⽣を避けることが必要であり、 開放型 の ⽯油ストーブ などの 使⽤ は 結露 が ⽣じやすく なる。
結露の種類 | 防止対策 |
---|---|
表面結露 | - 断熱材を使⽤して表面温度を露点温度以下に下げない - 絶対湿度を下げる - 室内では**⽔蒸気を発⽣させない - 屋外側に透湿防水防⾵層と通気層**を設ける |
壁体内部結露 | - 断熱材より室内側に防湿層を挿⼊する - 断熱材 外気側に通気層を設ける |